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暑い。蒸し暑い。
準備室の床に敷かれた白い布の上で、私はなぜか元石膏像のマッチョ男に押し倒されていた。
きっとこの男は魔法使いだ。でなければこんなに身体に力が入らないなんてあり得ない。
「あなた、ヘラクレスなの? なんなの?」
毛むくじゃらなひげの奥にある男の唇が私の首筋をくすぐるように舐める。私は男の唇よりもモサモサとした栗毛に顔をしかめる。まるで大型犬に舐められているかのような感覚だった。
「ヘラクレス? 何の事だ? 私の名前はブルータスだ」
「……へっ? ブルータス?」
もう、本当に訳が分からない。
芸術を志す人なら誰でも知っている胸像、ブルータスと同じ名前の男は、両腕で私を閉じ込めながら一旦顔を離して私を見下ろしてくる。
ちなみに、ブルータスの胸像は、さらに有名な「ブルータス、お前もか」というセリフの歴史上の人物とは全く違うらしいが。
この男は、一体なんなんだろう。
明らかに外国人だし、流暢な日本語を話すし、彫刻みたいなガタイだし。
ダメだ。頭が付いていかない。
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