復讐するは我に・・・?

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「どう思う?」  刑事の一人が、もう一人に向かってたずねた。 「どう、と言われても。その、答えようが・・・」 「まあ、そうだろうな」  黄色いテープの張られた部屋のなか、床の上には一人の青年が転がっている。  苦悶の極致の表情は、凍りついたように動かない。この先、動くことは絶対にないだろう。  状況から推して、『自然死』ではありえない。ありえないのだがーーしかし。 「PCの文章が本物ならーー密室状態の部屋の状況から推察して、当人が書いたのは間違いないんですが。こいつは俺たちの仕事じゃないですね」 「・・・使いふるされてイヤになるが、何不自由のない独身のエリートサラリーマン。これといった悪癖もなし。違法薬物等使用の痕跡なし。特筆するような病歴もなし。トラブルなし。前科は、もちろんなし。だがーー恨まれる筋はあったというわけか?」 「PCの文章通りなら、ですけれどね。けれど、こいつはーーお医者の領分でしょう?」  部屋のなかの重厚なデスクの上に置かれたPCの画面には、文字が幽霊のように浮かび上がっている。 『20年以上がまんを重ねたが、限界だ。なぜ、自分だけが、こう、こき使われなければならない? もう一本の方は、労働力でいえば自分の数割以下だろう。このような不平等が、ゆるされていいものか。いいはずがない。自分は断固、抗議する。いや、そんなものじゃあ、この澱みたいにたまった怒りの行き場がないのだ。この憤怒で自分は、おかしくなりそうなんだ。いや、もう、なっているんだ。そんな状態に追い込む権利が誰にある? 行動で示してやらなければ。そうだ。実力行使が必要だ。いや、これは復讐なのだ。目にーーいや、腕にモノを見せてやる。自分と、もう一本とをつないでいる主人面したヤツに、だ。 そうだ。まずはこうして主導権を奪って宣言してやろう。そして、それから思いしらせてやる。驚いている暇なんかない。ああ、そうだ。まったくありはしない』  …床の上の青年は、絶息してこときれていた。  眼球は飛び出るかと思えるほどだ。口からはどす黒い舌が、ふくれあがってはみ出ている。  他殺? 殺人事件?    
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