とある老人の死

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 その女性脚本家が亡くなって十年、ボロい安アパートで一人の男が死んだ。  変死だった。  周囲が異変に気付いて部屋に入ると、そこは異様な光景となっていた。  壁に貼られた数々の原稿用紙のコピー。そこに赤い文字で書き殴られた文字には「許してください!」「殺さないで下さい!」「もう無理です!」と錯乱した様子があった。  床には散らばった複数枚の写真。どれもが古いと分かる様子だ。  ワンルームのその中央、こんな物に取り囲まれた状態で、男は死んでいたのだ。 「こりゃ酷いな…」  立ち会った警察すらも顔をしかめるような状況の中、死後数日が経っているらしい男の遺体には誰も触れない。体中に自傷行為の痕が見え、酷い臭いを放っていた。  あまりに異様な光景に、所轄の刑事が呼ばれた。  刑事が落ちている写真の一枚を拾う。そこには一人の若い女性の笑顔があった。  だが、その女性の顔を何故か刑事は見た覚えがあった。かなり薄く朧気だったが、どこかで……。 「三間さん、これ!」  遺体を運び出し、現場を片付けていた部下が慌てたように名を呼ぶ。顔を上げた三間は、震えながらも手渡された写真を見て目を見張った。 「こいつは!」  そこに映っていたのは、女性の死体だった。しかも、死後すぐに撮られた物のように見えた。  そしてそれを見て、三間はどこでこの女性を見たのかを思いだし、直ぐに警察署へと戻っていった。
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