† そして目覚めに少年は幻影を刻む。

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 女性は続ける。手には再び新しい一本。もしかして結構スモーカーだろうか。火を点け深く吸い込んでから、まるで深呼吸みたいに吐き出すと。やっと話が再開された。 「彼女が自らも知らぬ間にウイルスそのものになって感染者の元に夢の幻として現れていた」  て、ことだけね。女性は笑った。笑いつつポケットから今度は煙草ではなく灰皿でもなく、紙切れを摘み出す。僕の前、膝の上に置いた。  それは彼女が写った画質の悪い画像プリントだった。  僕は手に取りまじまじと見詰める。部屋は変わりない。変哲は無い。彼女も僕の記憶のまま。  ただ。 「……」  向かい合う相手だけが僕じゃない。 「彼女と向き合ってるのは他の被験体よ」  感慨も見せず、女性は語る。  吹き出された煙は早々霧散し、立ち上ぼる煙はゆるりと上へ行きある一定の長さで切れていた。 「あなたの前の、感染者。……もうこの世にはいないわ」  遺体も跡形も無く焼却したしね。手は煙草を持つ指を軸に魔法を掛けるかのようにくるくる回り、唇から放たれる解説は呪文を唱えているみたいだ。  少なくとも彼女がウイルスであることより現実味に欠けている、風に僕は思う。  そう言う女性から紡がれるのは、決して魔法の呪文じゃないけれど。 「『プレイバック症候群』。発症理由はとても非科学的……に、思えてそうでも無い」 「……」 「古来魔法や祈祷、呪術なんてものは一種の才能を用いた技術でありまたプラシーボ効果……つまり思い込むことで脳を活性化、常人でも想像力を最大限活かすことで発揮する人体のメカニズムを利用した技法でもある。……ゆえに」 「……」 「悪魔の実験が行われた訳よね。この科学最盛期に」  ばさっと。女性はどこか口上めいた話を演説のようにすると、何だか分厚い紙の束を僕に投げて寄越す。あの彼女の画像プリントを見せたときみたいに。  僕は目線を落とす。放られた先の着地点はまたもや僕の膝の上。そこに留め具の御蔭で散らばらずに済んだ紙束が置いて在る。僕は凝視した。  彼女の、胸から上を写した写真が載っていた。写真は正面を向いて、証明書に貼るものに似ている。  だがその写真が付いた紙が、あまり良いことを記していないと言うことに僕は感付いていた。
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