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「今回は悪魔の実験が引き金だった。能力者を造る実験。その最中彼女は死んだの。よく在る、でも莫迦げた話よ。愚かなね。その時代の国家が破綻したとき、その研究も終了。後に代わった主導者から主要人物だった博士は『危険人物』また実験を『人非道的』と判断され死刑になった……と、資料には在るわ。彼女が死んだ、三年後ね」
皮肉で滑稽なその物語は、この女性の作り話ではないことが資料でわかる。
ただし、資料も作り物だったらどうにも出来ないけど。
けれど嘘では無いだろう。なぜなら僕にそんな嘘を付いても一つも得しないからだ。
僕は女性に耳を欹てる傍ら、手にした資料へ目を通した。
彼女の項目には彼女の生まれから日々の生活、受けさせられた実験の結果が、死ぬ直前まで記載されていた。
枚数にして僅か二、三枚。あとの分厚い部分は別のデータだった。僕は資料を膝の上に置く。
たった数枚。それが彼女が生きていた証しだった。
「奇しくもその博士は実験に成功していたのよね……。実体は無くしたけど意思を残したんだもの。最早超越した能力者でしょ。最高の成功例だったのにね」
女性を捉えると、表情に変化は無かった。ただ声だけが多分に毒を含んで皮肉を吐く。
もしかしてこの人は……。
「あなたも……科学者ですか?」
「一応ね」
不意打ちな発言にも関わらず返しに淀みは無かった。
「国が在って名前が在ったあの時代、それでも人間は人間を同じ生き物だと思わなかった。動物ですら生き残る手段を得る以外他の種を襲わないって言うのに。同じ種を尊重することさえしなかった」
そして現在、人間は国を失い名を失い家畜のようにエリアと呼ばれる囲いの中でコードで呼ばれながら生きている。情けない話。
「今回はオカルティックだけど非現実では無いのよ。実際に能力開発は実用化されてる。そんな中で幽霊が否定されるなんてある意味矛盾してるもの。……で、」
「はい」
「彼女は“どうしてる”?」
平然と科学者たる女性は持論を述べ、僕にそう質問した。
「……」
僕は逡巡した。
目前の女性は、科学者だと言う。彼女に非道な実験を施した人間と同じ。
「───」
でも、と否定する。僕は考えた。この人は違うと思う。
今は悦に入った輝きをする瞳が、さっき瞬いたときは嫌悪を孕んだように見えたから。
あの言い方には遠回しな非難が在ったと思う。
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