† そして目覚めに少年は幻影を刻む。

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 そして彼女はそれを受け入れた。だけども、だからって彼女が他の人のところから手を引くかと言うとそう容易くは無いらしい。  どうしてかと言えば、彼女はウイルスとして体内に根付き、無意識下に寄生した思念体だからだ。  無意識下はあらゆる人間が並列下で繋がっている。そこに棲まう彼女はたとえるならば無意識下そのもの。  彼女は僕の中にいながら他人の中にいる。 「その話って下手すると私の中にもいるってことかしら?」 「と、思いますけど」 「ぞっとしないわねぇ。自分の中に他人がいるなんて」 「でも案外、そんなモノかもしれませんよ?」  人間は繋がっている。  かつて一人だった少女は今や大多数の中に《居場所》を持ち、その中に存在している。だからどこかでひょっこり、夢にでも現れるかもしれない。  真っ白な部屋に微笑んで、彼女は。  だけど僕は知っている。それは彼女の願いで、けれど真意ではないこと。  本当の願いは、大多数の無意識下に存在することではなく、  いつか意識外の不安に怯え見た悪夢に、やさしく励ましてくれた少年の中。  少女が本当に居着きたかった場所はそこだったのではないだろうか。  彼は後悔してるだろうか。  少女を己の恐怖に屈したがゆえにそう言った別次元のモノにしてしまったこと。  知ったとしたなら。  しかしそれを誰も知ることは無い。訊くことはおろか、調べることも。  今は不特定な複数の無意識下に巣食う彼女にさえも、窺い知ることは二度と。    【Fin.】
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