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「ええ」
力強く、彼女は頷いた。
彼女が言う。ならばそうなのだろう。
そうか。気のせいか。
「……」
見詰めれば、やさしく笑んで返す彼女。────そこには一点の曇りも無い。
……そうだよな。気のせいだ。きっと、何度も同じ夢を見てるから、同じような会話を前にしたんだ。既視感、てヤツだろう。
しかし僕ってヤツは何て臆病なんだろう。こんなに素敵な……素敵な、……あれ?
目には笑う彼女。
「……」
彼女の、名前は?
「────被験体『B-0ur0bor03』の状況は?」
「わからない。だが一際強い反応が出ている」
「もう危ないかもしれないわね……救護班?」
「……こちら救護班」
「被験体『B-0ur0bor03』の状態は?」
「心肺の活動が著しく低下しています。心拍数、かなり減少」
「マズいわね」
「ああ」
「また、連れて逝かれる?」
「ね、ねぇ……」
「なぁに?」
「き、きみの名前、なんだけど、」
「────そんなことどうだって良いじゃない」
「え、」
「私たちが寄り添うことに比べたら離れることに比べたら、そんなことは些細な事象よ。────そうでしょう?」
迷いの無い笑顔で彼女は言った。
相次ぐ戦争と止まらなかった環境破壊、莫大規模な自然災害で、西暦が破綻してしばらく経ったころ。人々の間で奇妙な流行り病が蔓延した。
感染経路も不明なそれは、『プレイバック症候群』と呼ばれた。
「ねぇ、」
僕は、さっきからこれしか、話を切り出すのに使っていない気がする。
けれど名前がわからない今、僕にはこの呼び掛け方しか残っていないのだ。
「寝ましょうか」
「え、」
返事の仕方もこればかりだ。だが今回これは正しい利用法だと思う。だって。
「寝る……って?」
何で急に?
「何で、」
「寝れば嫌なことは忘れるもの」
「けど、」
「大丈夫
もう悪夢は見ないわ」
「『プレイバック症候群』───一説だと自然発症ではなく人為的発症とされている」
「生物兵器────通称『B兵器』ってヤツか」
「正確にはB兵器として製造されたウイルスが何かの原因で外に洩れ、進化を辿った結果が『プレイバック症候群』と言われている」
「そう。罹った者は皆夢を見る。繰り返し繰り返し何らかの夢。ずっとレム睡眠とノンレム睡眠を交互にして。目が覚めないまま、いずれ衰弱し死に至る」
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