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「最初はただ麻薬的な効能を期待しただけだったんだろうにな。ご愁傷様」
「誰に言ってるの?」
「造ったヤツ。最盛期の半分も、人類は減っちまってるって言うのに」
「原因も不明。治療も不明。感染経路も特定不明。……打つ手なしかぁ」
「……そうでも無いわよ」
「本当? 悪夢は見ないの」
「ええ、
もう、二度と。だから
お休みなさい」
彼女は、今までで一番の笑顔を向けた。
「……どう言うことだ?」
「生存中の被験者の脳から電気信号幾つかを読み取ってデータ化、またあらゆる方向から脳の解析を掛けて内部を映像化してみたの」
「内部って……」
「『プレイバック症候群』の夢の中よ」
「ゆっくり、目を閉じて……」
彼女の手が、僕の瞼を壊れ物に触れるように撫でる。視覚が失われる。
「ゆっくり……リラックスして……力を抜いて……そう」
彼女の声と共に体から力が抜ける。段々意識が遠のく。
「そう……怖がらないで……そのまま……
手放して」
言われるがまま、僕は意識を手放した。
「映像化って……そりゃあプライバシー侵害になるぞ」
「訴えられません?」
「私たちは特権が認められてるのよ? それくらいどうとでもなるわよ。で、これなんだけど……モニターに出すわね」
「被験体『B-0ur0bor03』は診ていなくて良いんですか?」
「大丈夫。救護班が頑張ってくれるわよ」
「……ご愁傷様……」
「何か言った?」
「何も」
「ふー……まぁ良いわ。とにかくこれ、見てちょうだい。三つとも同じに見えるでしょう?」
「ええ……あれ? でも、」
「気付いた? そう、
すべて違う被験体なの」
手放した先、僕の体はふわふわ浮いているような……ゆらゆら揺られているような不思議な感覚だった。
僕はどこへいくんだろう?
僕はどこに向かってるんだろう?
まったくわからない。
不安になる不安になる不安になる─────そんな中、僕は思い出していた。
彼女のことを。
「……何だこりゃあ……」
「同じ部屋、同じ調度品、同じベッド、そして」
「────同じ少女」
昔少女がいた。彼女は孤児だった。親は無く兄弟も無かった。だけれど少女は決して苦労はしなかった。清潔な建物の中、厳重な監視を敷かれていたけれど。
彼女は『兎』だった。いろんな実験を観るための、モルモットだった。
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