† それは、悪い夢。

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 だから、一等清潔を保たれる場所で、彼女は栄養価を考えられた食事を与えられ生活していられたのだ。  奇しくも未だ西暦で年が、数えられている最中。  紛争戦争勃発環境破壊激化自然災害猛攻の真っ只中。  世界の狂った中であった。 「……この子ね、実は資料に残ってたの」 「え?」 「随分昔よ。国が[国]として機能していたころの、ね」  少女には友がいた。少年だった。やさしい少年。少女が無意識に抱える不安を夢に見て目を覚ますと、決まって先に起きていた彼が宥めてくれるのだ。 「それはただの悪い夢だから」、と。  少年が隣りに寝てくれて少年の手が少女の髪を撫でてくれて、少女は少年の体温を感じ常に安堵した。  少女は少年が大好きだった。寄り添って眠れば悪い夢なんて見ないと思った。  だが現実は残酷だった。  ある日通常通りに少女は実験室に呼ばれた。その扉を前にすると少女は日頃受ける実験とそれに伴う痛みを思い出して身が竦むのだけれど、後ろに銃を構えた兵士が立っているからそこにずっと立ち尽くしている訳にもいかない。勇気を振り絞り後ろの兵士に小突かれる前に、少女は扉をノックし返答のあとノブを回した。  開けると、いつもの光景が今日は違っていた。少年が立っていたのだ。  少女は一瞬喜色に顔を染めるけど、少年のただならぬ雰囲気に口を噤んだ。  やがて少女は地獄を見る。  それは裏切りと粗末に扱われた存在の、果てに観る悪夢だった。 「資料には『エコー実験』の実験結果が記されてるわ」 「『エコー実験』って……」 「いわゆる“『異能者』を開発する”ための『人体改造』ね。最初に開発しようと持ち上がったのが話さなくても念じるだけで会話出来る『テレパシスト』だったことから、“反響”つまり『エコー』と名が付いた。開発は結構急いでたみたいでね。片方を拷問して片方にその苦痛が伝わるか、みたいなこともしていたみたい」 「ひでぇことしやがる……」 「問題は彼女を実験に使うときに使用した方法。ここを見て」 「! これって……」 「ええ  このウィルスこそ『プレイバック症候群』の[始祖]と言うことね」  少女は見ていた。  少年を見ていた。
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