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けれどもお粗末な僕の脳細胞は、結局気の利いた言葉一つ出て来なくて────ありのままを彼女に伝えるしかなかった。
「うーんと、……きみを思い出したからかなぁ?」
「え……」
「ふっとね、夢にきみが浮かんだ」
だから、目が覚めたんだ。
そう告げる。照れ隠しに頬が上がった。
「……」
でも告げた言葉は、彼女を結果的に泣かせてしまったのだけれど。
「被験体『B-0ur0bor03』が、持ち堪えた?」
「脈拍、心拍数共に正常値に上がりました!」
「初めてのケースね」
「どう言うことだ? こんなことって……」
「案外、目を覚ますかもよ?」
「え」
「本来ならここまで来た発症者は衰弱死していた。けど被験体『B-0ur0bor03』はその危機を脱した。────最初の克服者になるかもしれない」
「私はウイルスなの……私は死んで、そのときに感染させられたウィルスが私の中で変化して……何代か経てあなたに感染した」
「……」
「私、死にたくなかった。生きることがどうとか死ぬことがどうとか、あのころの私はわからなかったけど……少なくとも死にたくは無かったの! でも、私は死んじゃった……そうだから、こうしてウイルスになった……ウイルスそのものに……」
「……」
「私は、私は、……どうしたら良いんだろう……。私、恨んでないの。恨んだ訳じゃないの。“恨む”ってことを、まだ理解してないのかもしれない。いろんな人を媒体にしていろいろ学んだけど……やっぱり私恨んでない、恨めない。私を利用した博士も、私を見殺しにした人たちも、……私を裏切った人も。……私、どうしたら、」
「いれば?」
「え?」
「だったらここにいれば良いじゃない? えと、僕の中?」
僕は平然と言い放つ。彼女の目が丸くなった。
笑う以外の彼女をこんなに見たのは初めてだから何だか新鮮な気分だ。
「───……」
僕の最後の記憶は、
彼女の涙を湛えながらそれでも、
精一杯に笑んだ表情だった。
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