上りと下り

　その店の一階と二階を行き来するエスカレーターは、上りと下りが横並びという造りだった。
　向かって右に乗っている人がゆっくりと下ってくる。ならば上りは左かと、そちら側に向かったら、下ってきた足場が床下へ飲まれていった。
　隣の人は、わざわざ上りを逆走しているのか？
　驚いて反対のエスカレーターを見たら、段は間違いなく上へ向かっているのに、走るどころか身動き一つしない人が、流れに逆らって下ってくるのが見えた。
　その光景に驚く以上に慄き、俺は大慌てでエレベーターの側から立ち去った。
　あれ以来、そこの店では、あの不気味なモノに出くわさないよう、階段を使っている。
　おかげで、不本意だけど少し足腰が丈夫になったよ。

上りと下り…完