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この会社には何故か俺の意図しないところでファンクラブが結成されているらしく、俺と同じ部署だと他の女子社員からの風当たりが強いらしい、と鈴木さんから聞かされた事がある。
はっきりいって迷惑なのだが、新入社員同様の俺が『迷惑だからやめてくれ』なんて言えるはずもなく、知らぬ存ぜぬで過ごしてきた。
だが、これ以上自分のせいで誰かを犠牲にはしたくない。北村さん達は女子社員を待ち望んでいるようだが、俺はあまり快く思っていなかった。
そのファイルを見るまでは。
「今どき珍しいくらいの普通の子だな!」
そう言いながら、北村さんがファイルを俺へ手渡してきた。
俺は特に興味もなくファイルを開く。
「…………!」
中身を見た瞬間、一瞬呼吸を忘れた。
まさか。
そんな事があるはずがない。
どうして?
そんな言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
写真と、その下に書かれた名前を穴が開くくらい凝視した。
間違いない。
――“カナ”だ。
“田村果夏”と書かれた名前、そしてこれまで何度も偶然に見かけてたその姿が、自分の手の中にあった。
……信じられない。
2度と会えないと思っていたのに。
閉じられた運命の扉が開く音がした。
「今日から商品企画部に配属になりました田村果夏です。よろしくお願いします」
4月。
研修を終えた果夏が俺の部署へ来た。
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