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最後に彼女を見たのは確か、大学2年の冬の京都だった。
あれから4年経った彼女は、当然学生服は来ていない。
真新しい、うちの会社の制服に身を包んでいる事が、この目で見ても本当に信じられなかった。
俺は彼女の教育係に任命された。
彼女の視界に自分が映る、それだけの事が奇跡のように思えた。
これまでは一方的に見ていただけなのに、今は目が合い、会話が出来る。
俺を――櫻井亮として認識してくれている。
デスクで仕事をしていても、背中合わせに座る彼女の気配が一々気になる。
もう、2度とこのチャンスを失いたくはない。
でないと、俺のこの病的とも言える初恋の背中を押して身を引いてくれた、かつての恋人の渚に申し訳が立たない。
俺はかなり慎重になっていた。
下手にアプローチをかけて、女子社員の心象を悪くしてはならないから、業務以外の会話はしないようにしていた。
そして、新入社員歓迎会の日。
彼女が隣にいる緊張からか、いつもよりもアルコールを消費するペースが早くなる。
「じゃあ、自己紹介からお願いしようかな」
部長が彼女を見て言ったが、肝心な彼女は上の空で聞こえていないようだった。
「田村さん?」
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