第一章 お気に入りのお店・お蕎麦屋さん

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お気に入りのお店の一つで有る近所のお蕎麦屋さん。チェーン店でいつも行くのは自宅から一番近い店舗だ。注文をしに来る店員が温かいそば茶を二つ、お盆に乗せて持ってくるのが見えた。 「新人が入ったみたいよ。この間、来たときは居なかったよね?あの店員」と私が言うとスマホをいじっていた主人が顔を上げる。「お、本当だ。新人のわりには俺らと同じくらいの年齢かな?童顔だけどフレッシュって感じじゃない。」「童顔と新人は関係ないジャン(笑)バイトかな?アラサーで?」「うーん、会社、首になったとか?」「同世代と想われる店員のプライベート、気になりますな。イケメンだし♪」と夫婦と言うよりは友達と言った方がいいかもいれない、そんな我々のトークには気付かず、新人の男性。歩く佇まいが落ち着いている。「いらっしゃいませ」と言った瞬間、私の心がキュンっと震えた。凄く良い声。たった一言で優しさが伝わってくる、甘い声にだった。一目惚れならぬ一聴惚れだった。たった一言の声にときめくなんて、しかも主人の目の前で。そんなおかしな話、あってはいけない。恋のわけがない、単に好みの声と言うだけだ。言い聴かせながら動揺が隠せない。そんな私の動揺に気付いたのか「どうした?」「いや・・・なんでもない」流石は主人である。他人では気付かないような動揺を気付くのだ。変化が有ると直ぐに気付く優しい主人だ。「そう?」「う、うん。」やりとりが終わったところで空気を読んだ店員は「ご注文はお決まりですか?」と声をかけてくれる。二言目の声にまたキュンっとする。新人のわりには落ち着いているしお客の間も分かっている、年の功って奴か。「はい、決まってますので・・・」と主人は私と二人分の注文をし店員はスムーズに注文を取り去って行った。動揺を隠せない私はスマホを出して、見もしないSNSのトップ画面をタップし見ているフリをした。
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