第三章 別れのきっかけ

3/16
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
「デザートお持ちして宜しいですか?」店員さんがタイミングを見計らって声をかけてくれた。「お願いします」主人が返事をしてデザートを待つ。「デザートも期待だね!」ウキウキしていると「絶対にウマいぜ!」「ふふっ」穏やかな空気に心地良さを感じながら、付き合っていた頃の話題から最近の主人の仕事の忙しい話になる。「それでさ、転勤の件なんだけど」「うん・・・何処だって一緒に行くよ私。」「・・・いいのか?だって、さ・・・・・・・・・・・。この街、結構気に入ってただろ?」少しの無言の中に何を言おうとしたか分かった。多分、きっと、小杉さんへの想いを気付いていたんだ。なのに今までもずっと言わないでいてくれた。即答したことに驚いていたのだろう。「子供も居ないし持家でも無いのに残るわけないでしょ。それとも連れて行ってくれないの?」「・・・いや、一緒に来てくれると俺は嬉しいんだけど。着いてきてくれるか?」普通、主人が転勤なら一緒に行くでしょ・・・小杉さんへの気持ちに気付いていたから、話し辛かったんだ。私のせいなのに、申し訳なさそうにしている。「当たり前じゃん、新しい街に慣れるまでは不安だけど、きっと良い街だよ。二人で頑張ろう!」「ああ。・・・うん。サンキュ。詳しいことは家に帰ってからにしようか。」ホッとした顔を見たら胸が苦しくなった。「お待たせしました」またしても絶妙なタイミングでデザートが運ばれてくる。「このお店、気に入ったのに転勤はちょっと淋しいよね。」と言うと「まだ時間はあるんだし、もう一回来ようぜ?」「そうだね!気に入っているお店は徹底的に制覇して心残りなく転勤しちゃおう!」「忙しくなるな(笑)」転勤したら、もうこのお店にも、気に入っているお店にも、もう行けないだろう。勿論。お蕎麦屋さんにも。小杉さんにも逢えなくなるのだ。いよいよ・・・電話をする最初で最後の日が近づき始めた。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!