第三章 別れのきっかけ

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「君のことを誰よりもずっと愛しているのはきっとご主人なんだ。君を愛しているから君が困ることを言わない。そんな ご主人といるときの君の笑顔が好きなんだ。もし俺と一緒にいてご主人といる時以上の笑顔を見せてもらえるか自信がないんだ。」「いつも余裕に見えたのに今日は・・・」「本当は余裕がなかったんだよ。大人ぶってカッコよく見せたくて。本当の俺は 余裕も自信も無いんだよ。」知らなかった。 最後だから打ちあけてくれたんだと想う。 私もちゃんと伝えなければ。「小杉さん。私、小杉さんの事が好きです。すごくすごく愛おしい存在です。だけど・・・」「出来れば盛大に“嫌い”と言って欲しい。」「言えない・・・ですよ」「嘘でもいい、いいんだ。」嘘だって嫌いなんて言えないよ。「き、き、き・・・嫌いです。優しいから、嫌いです。」「ありがとう」「やっぱり嫌い・・・なんかじゃ・・・」言い直してしまいそうになる私の唇を小杉さんの手で押さえられ今まで見たこともない切ない顔で私を見つめた。「さようなら」 声を震わせてたった一言。それから、私を解放した。「さようなら・・・」 私の口からも別れの言葉を一言。 お手洗いに行くのを忘れ スタッフルームを出て出口へ向かい車に乗り込む。「顔が真っ青だけど大丈夫?」「うん、大丈夫」「 今の電話でさ、会社に行かなきゃいけなくなったから。家で今日はゆっくり休んでな」「うん、わかった」そのまますぐ家に帰り、主人は仕事へ行き、私は一人、家で泣いた。せつないのと悲しいのと苦しいのと胸が張り裂けそう。泣いて泣いて泣きまくって数時間が経った。涙すら出てこなくなった。携帯を手に取って小杉さんの電話番号を見つめる。電話をかけた時が本当の最後。“その時”への悲しいカウントダウンはもうすでに始まっているのだ 。
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