2/3
前へ
/20ページ
次へ
 軽蔑、嫉妬、怒り、悲しみ、安心、困惑、憎悪、幸福──。その瞬間、私の瞳は一体何を映しだすのだろう。  「だっるー」  九月から変わった国語教師、田島の授業は、ぼそぼそとお経を唱えているようで眠くてたまらなかった。今日ラストの五限目だったから尚更だ。  「繭(まゆ)。言葉遣い良くないよ」  つん、と背中をつつかれ振り返ると、後ろの席の紗奈(さな)が口をきゅっと閉じて頭をふるふる振っている。  誰にも迷惑かけてないやろ?と反論すると、「ひらがなだから別にいいんだけどね」とあっさり許されてしまった。  紗奈いわく、私の言葉は全てひらがなで聞こえるらしい。ダッルー。じゃなくて、だっるー。同じ言葉でも繭が言うとキツく聞こえないね。と名前で呼びあえる仲になってすぐに言われた。  そうかもなと思う。まるいんだ私は。目も鼻も声も、纏う空気も全て。性格と、体以外。  二人の兄の影響で時たま男っぽい言葉遣いが出てしまう私とは正反対に、一人っ子の紗奈の言葉遣いはいかにも女の子という感じだ。でもだみ声のせいで台無し。は、前に一度言った時にえらく怒られたから、そっと胸のなかにしまった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加