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  カランコロンと軽やかな音を立てて、お店に足を踏み入れると、いつものようにカウンターの向こうにはマスターが佇んでいる。  艶やかな黒髪で寝癖など一切なく清潔感を感じる髪型に、オーバルの黒縁眼鏡を身に着け制服をピシッと纏っている姿は知的でどこか落ち着いた大人な男性を彷彿させる。  そして誰もが振り向くであろう、端正で品のある顔立ちなのだ。あの顔で微笑まれたら、老若男女関係なく絶対に赤面する。私も最初はそうだった。慣れてしまえばどうってことは無いのだが。  マスターと同じように落ち着きのある店内には、常連客である山本さんがカウンター席の壁際に座ってマスターに何か話しかけているようだった。  いつものお気に入りの席、マスターのから見て左斜め前に座るのが私の中で決めていることだ。 コーヒーを入れている繊細な手つきなどをこの席なら見ることが出来るのだ。  マスターが手元から視線を上げると、私に気づいたようで柔らかく微笑んだ。 「いらっしゃいませ、凛さん。今週も”あのお話”ですか?」 「マスター今週も聞いてください!ていうか、マスターしかまともに聞いてくれないんです……」 鞄を足元の籐で編まれた籠に入れて、椅子に座った。 「凛ちゃん、またあの話~? どうなの愛しの彼とは?」 頬杖をついて、私の顔をニヤニヤとした顔で山本さんは見つめてくる。毎週いるので私の話の内容は熟知している。 「毎回言っていますが、女性をそんな厭らしい目で見ないでください」 「俺そんな目で見てないけどな~」 やれやれと言わんばかりに首を横に振りながら窘めるマスターに全く懲りていない様子の山本さん。  私はこの喫茶店で大好きなコーヒーを飲みながら、私の恋の話を聞いてもらうのが楽しみなのである。
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