三度目の正直

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 「なんも思わないわけ?風呂でばったり鉢合わせしても?間違って押し倒しちゃったとしても?」  「なんでお前はすぐそっちの方向に話を進めるんだよ。しかもなんだよ、間違って押し倒すって」  ワイングラスを阿部さんの頬にグリグリと押し付けて、高瀬さんが笑い出す。  思わずわたしも笑ってしまう。  これまで暮らしてきて、そんなうっかりは一度もない。しっかりした高瀬さんのことだ、これからも一生ないだろう。  「焦れったい!このむっつりが!シャワー借ります!」  「おい待て酔っ払い。意味わかんねーよ」  「俺たち泊まるから!」  「勘弁してくれ」なんて言いながらも、高瀬さんは楽しそうに笑っている。  いつもこんな感じで飲んでいるのだろうか。  職場の彼だけを見れば寡黙に仕事に向き合う印象が強いが、こうしてプライベートを知るとその印象は大きく崩れる。  穏やかで温かくて、波がなく落ち着いている。  でもそれは決して静かという意味ではなく、こうして気心知れた友人の前ではまるで子供のように無邪気に笑うし、何気ない普段の会話も表情豊かだ。
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