三度目の正直

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 「市川」  何も言わないわたしを高瀬さんが包み込む。  引き寄せられるように身を寄せて、肩に頭をもたれる。  こうして高瀬さんの腕に包まれるのは二度目だ。  抱き締められたら分かってしまった。  どんなに誤魔化しても、もう無駄だ。高瀬さんのことが好きで好きで、どうしようもない。  一筋溢れた涙を拭われ、優しく頭を撫でられる。  「佳乃」  初めて名前で呼ばれた。  その切ない声に籠められた気持ちが知りたい。この優しさを身勝手に解釈してしまいたい。  「高瀬さん」  見上げると、高瀬さんの指がわたしの唇をなぞった。  ただ優しく触れるだけのキスだった。柔らかく、温かで心地良い。  今どんな表情をしている?どんな気持ちでいる?  それを知りたくて高瀬さんの表情を見たいのに、わたしの瞼はアルコールのせいかゆっくりと閉じていく。  「おやすみ」  その言葉に返事をすることもできず、夢の中に溺れていった。
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