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「市川」
何も言わないわたしを高瀬さんが包み込む。
引き寄せられるように身を寄せて、肩に頭をもたれる。
こうして高瀬さんの腕に包まれるのは二度目だ。
抱き締められたら分かってしまった。
どんなに誤魔化しても、もう無駄だ。高瀬さんのことが好きで好きで、どうしようもない。
一筋溢れた涙を拭われ、優しく頭を撫でられる。
「佳乃」
初めて名前で呼ばれた。
その切ない声に籠められた気持ちが知りたい。この優しさを身勝手に解釈してしまいたい。
「高瀬さん」
見上げると、高瀬さんの指がわたしの唇をなぞった。
ただ優しく触れるだけのキスだった。柔らかく、温かで心地良い。
今どんな表情をしている?どんな気持ちでいる?
それを知りたくて高瀬さんの表情を見たいのに、わたしの瞼はアルコールのせいかゆっくりと閉じていく。
「おやすみ」
その言葉に返事をすることもできず、夢の中に溺れていった。
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