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「寝る前のこと思い出してたんだろ。やらしい奴」
「なっ!」
口をパクパクと動かすが、否定できる言葉が出てこない。
「もう一回する?」
心の中で大絶叫してから、きつく目を閉じる。
してもらえるのなら、何度でもしたい。例え下品だの破廉恥だのと言われても。
でもキスの代わりに降ってきたのはデコピンで「いたっ!」と額を押さえる。
「バカ」
なんとなく高瀬さんの心の壁の内側にいる気がする。意地悪で、ちょっと言葉遣いが乱暴で、心の距離が近い。
「き、着替えて朝ごはん作ります!」
ちょっと怒っているふりをして、先にベッドから抜け出す。本当は昨夜のことを聞きたいけれど、恥ずかしくて顔すらまともに見れない。
だがドアを開ける寸前に「佳乃」とまたしても名前で呼ばれた。
反射的に振り返ると、また不意打ちで唇が重なる。
そのまま角度を変えて何度も繰り返される接吻に、蕩けそうになって自然と目を閉じる。
あまりの心地良さに夢なんじゃないかと疑わずにはいられない。
しかし決定的な言葉なまま、二度目のキスが続く。
それでも高瀬さんを思う気持ちは変わらない。馬鹿な女に成り下がっても構わないとまで思ってしまう。
今度こそ平穏に暮らしたいと願っているのに、浅はかな思いは強くなるばかりだ。
この体温を知ってしまえば、自ら手放すことなんて出来やしない。
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