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企画会議を終えて、背伸びをしながらエレベーターに乗り込む。
差し込む夕陽を背に浴びて暖まりながら、手元の資料に目を落とした。
それでも、ふと思い出すのは高瀬さんのことだ。今朝以来一言も話していないせいか、やけに恋しい。
わたしを見つめる穏やかな眼差しと、わたしを呼ぶあの低い声。そして、あの柔らかでなめらかな唇。
無骨な手、広い背中、高い背丈、整えられた髪。そっと香る爽やかな香水の匂い。
高瀬さんの一つ一つがわたしの心を掴んで離さない。
好きです、とただ一言伝えられれば良いのに。
高瀬さんの唇を知ったせいだろうか。好きで、好きで、手に入れたいと思ってしまう。誰のものにもならないでほしいと。
でも、それを伝えればこの暮らしが崩れてしまう可能性もある。また高瀬さんと話せなくなるなんて、そちらのほうが耐えられない。
この気持ちがいつか落ち着いて、すっかり自分の一部になって鳴りを潜めるまで、ただ隠し通すしかないのだ。
誰かに相談することもできないし、知られてもいけない。自分の中に留めるしかない。
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