鬼胎を抱く日々

28/36
前へ
/368ページ
次へ
 それから少し経ち、金曜日の昼休みのことだった。  冷房の効きが弱い食堂は蒸し暑く、夏場は冷たい麺類を頼む社員が多い。  勿論わたしもその一人で、サラダうどんを食べながら食堂に置かれたテレビをぼんやり眺めていた。  「なに食ってんの」  隣の席にざるうどんが置かれ、見慣れた人物が静かに腰掛けた。  「あ、高瀬さん……。サラダうどんです」  ドギマギしながらそう答える。  「へー。美味い?」   「個人的にはざるうどんより美味しいです」  「今からざるうどん食べる奴が隣にいるのに失礼な奴だな」  そう静かに笑って、高瀬さんが手を合わせてからうどんを口へ運ぶ。  テレビは通信販売からいつの間にかニュース番組に変わっていた。
/368ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12548人が本棚に入れています
本棚に追加