鬼胎を抱く日々

30/36
前へ
/368ページ
次へ
 来週頭にはプレゼンが控えているというのに、資料作成は頓挫している。  今日中に仕上げようと思っていたが難しそうだ。これはもう持ち帰るしかあるまい。   パソコンに向かっていても、頭に浮かんでくるのは昼間見たあのニュースのことばかり。  大して仕事は進んでいないのに疲労感を覚えて「ちょっとマーケティング部に行ってきます」なんて言い訳をして営業部のオフィスを抜け出した。  そのまま気分転換をしようと屋上に向かう。日陰のベンチに座ってゆっくり瞳を閉じた。  「大丈夫か」  暫く座っていると、落ち着いた低い声が背後から聞こえた。振り返り、慌てて目元を拭う。  「ほら、ミルクティー」  隣に高瀬さんが腰掛け、そのまま冷えたミルクティーを手渡される。  恐らくわたしの涙に気付いていると思うが、高瀬さんは何も言わない。  「ありがとうございます。高瀬さんったら、サボりですか?」  「サボりに行く奴の背中が見えたから追いかけてきただけ」  「サボりじゃないですよ、精神統一です」  「なんだそれ」 高瀬さんはそれ以上何も言わず、黙ってアイスコーヒーを飲む。  わたしもそれに倣って、ミルクティーに口をつけた。
/368ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12548人が本棚に入れています
本棚に追加