鬼胎を抱く日々

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 「泣いてただろ」 暫くしてそっと呟かれた一言にギクリとして高瀬さんを見ると、視線が交差した。  吸い込まれそうな漆黒の瞳から目が離せなくなる。  黒曜石のようなそれと見つめ合っていると、そのまま不意に抱き寄せられた。  重力の向きが変わったかのように、いとも簡単にわたしの身体は高瀬さんの腕の中に収まる。  「市川」  いつもより低い声が吐息とともに耳に入ってきて思わず息を飲んだ。  「被害に合った他の人たちには申し訳ないけど、市川じゃなくて良かった」  その言葉と共に高瀬さんの腕に力が入る。  「もし市川に何かあったら、後悔してもしきれなかった」  存在を確かめるように、わたしの頭に頬を寄せる。高瀬さんの温もりが隠したはずの涙をまた誘発する。  恐らくわたしも三村さんの獲物だったのだ。あの雨の夜、三村さんが洗剤を借りに来たのは建前だったとしか思えない。  そのあとも隣の部屋で虎視眈々と機会を待っていたのだろうか。その間に違う女性たちを傷付けながら。  高瀬さんがいなければ、今頃わたしも……。 そう考えると怖くて、気持ち悪くて、涙がこみ上げてくる。  「市川。嫌なら断ってくれて構わない」  そっと高瀬さんが離れる。いつになく真剣な表情の高瀬さんと目が合った。
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