鬼胎を抱く日々

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 猛暑日が続く夏真っ只中、ついに新居での生活が始まった。  広々とした2LDKは大開口窓のおかげで開放感があり、日当たり抜群だ。  最上階なので周囲の目線を気にする必要もなく、カーテンを開けて存分に光を取り込めるのが嬉しい。  そして自室として使う二部屋は壁紙が選べるシステムで、高瀬さんは和紙のような風合いのブルーグレーの壁紙を、わたしはざっくりとした織物調の薄紫色の壁紙をセレクトした。  それだけで早くも愛着感が湧くのだから不思議なものだ。収納量も多く、今のところ不満は一つもない。  「終わったか?」  ノックのあとに高瀬さんがドアから顔を出す。午前は二人で共有スペースの荷解き、午後はそれぞれ自室の荷解きをしていた。  「ハンガーの衣類を掛けたら終わりです。あ、もう五時なんですね。あっという間」  「結局一日中やってたな。疲れたし今日は外で食べるか」  これから買い出しに行って夕食作りというのは流石に大変なため大賛成だが、良いのかな?と迷いが生じる。  以前高瀬さんの家に同居することが決まった時には、家以外では関わらないようにすると決めた。  とは言っても、今は社内でも少しは話すし、関わりがないわけではない。  だが日曜日の夕方に私服姿で二人揃って食事しているのが社内の誰かに見られたら、どうするのだろう。  さすがに言い訳が見付からない。  「近くにお好み焼き屋あったの見たか?そこでどう?」  「会社の人に見られても知りませんよ?」  「どうせバレるんじゃないか。交通費とかの関係で会社に引っ越したこと報告しなきゃいけないだろ」  その言葉に衝撃を受ける。完璧に失念していた。  同時期に同じ住所で申請して、気付かれないはずがないではないか。
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