鬼胎を抱く日々

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 「大問題じゃないですか、それ……」  ひそひそと女性社員に噂され、烈火の如く怒る梨花に詰め寄られる。  そんな情景が浮かんできて恐ろしくなる。  「すごい顔してるぞ」  そう言って不安げなわたしを笑う。  高瀬さんは余裕綽々だが、わたしと一緒に住んでいることが社内に知れ渡ってしまったらどうするのだろうか。  「プライベートをあれこれ言われる筋合いはないんだから、なにか言われてもほっとけよ」  そうは言っても……と思いつつ、優しく微笑まれて条件反射で頷いてしまった。  励ますように乱暴に頭を撫でられて顔を上げる。  社内に知れ渡ってとやかく言われるのは避けたいくせに、高瀬さんがわたしとの暮らしを隠そうとしないことが嬉しい。  自分でも矛盾している自覚はあるし、笑うしかない。  「ほら、行くぞ」  「血の繋がっていない兄妹ってことにしません?」  「そんな複雑な家庭、間違いなく噂になるからな」  「えぇー。じゃあ申請の時期ずらしません?違法ですかね?」  「まずいだろ、それ」  苦笑いしながらそう言って、わたしの腕を引いて立たせる。  屋上で抱き寄せられたあの日以来、高瀬さんと肌が触れる機会が増えた。  何かを渡す時に手が触れるのも厭わないし、顔に掛かった髪の毛をさり気なく手で払われたこともあった。  高瀬さんは平然と表情を変えることなく触れてくる。  でも、わたしはその度に蓋をしたはずの気持ちが疼く。  どんなに見ないふりをしても、高鳴る心臓があの気持ちが消えていないことをわたしに思い知らせる。
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