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「うわー、茹で蛸みたい」
鏡を見て自分の紅潮した顔に呆れかえる。
でも可愛いなんて言われて平気でいられるわけがない。例えリップサービスだとしても、だらしなく頬が緩んでしまう。
「冷凍枝豆あったよな?」
頬に手を当てて幸せに浸っていると、高瀬さんが洗面所に顔を出した。
「あ、ドアポケットにありますよ」
何事もないフリをして、手早く化粧を直し始める。
「前に食べたペペロンチーノ風がいいな」
「ふふ、気に入ってましたもんね。これが終わったら作りますね」
二人で晩酌をした際に作ったペペロンチーノ風の枝豆を、高瀬さんが物凄く気に入っていたことを思い出す。
美味しいと言われれば断れなくて、仕方ないなと笑ってさっと髪を整えてキッチンに戻った。
オリーブオイルの上で微塵切りにしたニンニクと輪切りにした鷹の爪を炒め、香りが立つまで待つ。
「すげー良い匂い。これ好きなんだよなぁ」
高瀬さんが顔を寄せてフライパンを覗き込む。それだけで高鳴るわたしの心臓なんて、まったく気付いていない。
枝豆を入れたあとに塩と白だしで味を整えれば完成だ。二人で味見をして頷き合ったところで、来客を告げるベルが鳴った。
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