鉄の箱

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 その箱は鉄で出来ていた。  鉄で出来た天井は,何度も開いては閉じる日もあれば,何時間でも開きっぱなしの日もあった。もちろん全く開かない日もある。  鉄の天井が閉じている時間は,箱の中は静寂と暗闇が支配する。  そして,その鉄の箱の中では,背丈も個性も似て異なるモノたちが,ただ天井を見上げて静かに横たわっていた。  「ご主人様は,あの人ぱかり可愛がってさ。ほんと,あの人なんて大っ嫌い。いつまでも背高で,なかなか縮まないし。ご主人様につれられて行った先でも,硬い仕事や細かい仕事で重宝されてさ。私なんかと大違い。ほんと大っ嫌い。」    鉄の箱の中に横たわったまま太めのご婦人がそう言うと,隣に寝ていた中年の紳士が口を開いた。    「まぁまぁご婦人。ご主人様の仕事に連れて行かれるばかりが幸せでもありませんよ。別のところに配置になった私の同期なんて,仕事仕事であっという間に縮んでしまってお払い箱だ。私なんてここに配置されたせいか,いまだにこうして過ごせている。」  紳士はそう言ってホッホッホと笑った。  そう言われたご婦人は,少しむくれて言い返す。    「なんです偉そうに。同期の方が働いていらっしゃるのに,あなたはずっと寝てばかりじゃない。そんなに得意気になさらないで。」  ご婦人にそう言われた紳士は,反論もせずに向こうを向いてしまった。  「なによ。いつもいつも使われるのは2Hさんか4Bさん,2Bさんばかり。私が使われる時なんて,なかなかないんだから。悔しい。」  すると端で横たわっている一番背の高い青年がご婦人に大声で応えた。  「6Bさん。仕事に行けるだけマシじゃないですか。ボクなんて,ここに来てから一度も仕事をしたことがない。ホント,悔しいですよ。」  すると全員から声が上がった。    「Fじゃしゃーない。」  今日も缶ペンの中で,デッサン用の鉛筆達はお互いの使用頻度に嫉妬するのであった。 ――おしまい。  
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