夜会にて囚われる乙女

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 シュイリュシュカは二年半前のレトレンの内乱と呼ばれる反乱を鎮圧する際に右大腿部に深い傷を負った。その怪我が元で今は休職中の身であり、父親であるルドニコフ子爵から半ば監禁されるように生家で療養をしていたのだ。見た感じだとその怪我は完治しているようであるが、時折気にするような素振りを見せている。こうして貴族が集まる社交界の夜会に出席しながらも、未だ復職しない理由はその怪我にあるのかもしれない。  貴族の家に生まれ、適齢期を過ぎても結婚せずにあまつさえその身に傷まで負ってしまったのだから仕方がないといえばそれまでであるが、アストラードにはまだ何かあるように思えてならなかった。 「私は、もう戻れません」 「承諾できん」 「そんな……無理です」  シュイリュシュカはアストラードから視線を逸らし、無意識の内に右脚の古傷…というにはまだ新しい傷跡に手を当てる。 「まさか、それほどまでに酷いのか?」  やはり、そうなのか。  アストラードはそれまでの軽い雰囲気を潜めると、一転して真剣にシュイリュシュカを気遣い始めた。  先ほど誓いを行う前に二人はテンポの早いクイックステップの曲を踊ったばかりなのだ。ダンスのステップに違和感はなかったと思っていたが、どうやら負担がかかっていたらしい。 「すまない、配慮が足りなかった。どこか座れるところは……歩けるか?」  アストラードは辺りを見回すが、このテラスには椅子がない。  丁度いい、場所を移すか。  アストラードはダンス最中、身のこなしや、ステップという不可抗力で互いの身体を密着させて軽く抱きしめた時にシュイリュシュカの身体の変化を感じ取っていた。手術とリハビリの繰り返しで筋力の落ちた身体は、アストラードの逞しい身体にすっぽりと包み込まれるほど華奢で、それでいて女性らしいまろみが顕著になっている。堪らずに熱くなった己の腰を擦り付けた時、シュイリュシュカは確かに反応した。 「いえ、大丈夫です。ドレスを着慣れてないだけですから」 「お前は昔からそうだ……こんな時くらいは甘えておけ」 「大丈夫なんです」  その表情は真っ直ぐで何かを隠しているようには見えない。 「相変わらず頑固だな。そんなところも可愛いが、たまには従順になることもそんなに悪くはないぞ」 「なっ、か、可愛い、ですって?!」 「ああ、可愛いし、綺麗だ」  
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