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私が彼女にできるたった一つのこと
人生で選択できることなんて限られている。たいていの場合、選択肢は努力するか諦めるかしかない。そう悟ったのは三十歳を目の前にして、生きていくことに慣れたということだろうか?
貴子との出会いは最悪だった。
近所のコーヒーショップで、私は出勤前のカプチーノを飲みながら、トーストを食べているところだった。安いことが売りのコーヒーショップのカプチーノのは薄い味がしたが、それでも眠気を覚ますには十分だった。新聞を広げようとしたときに、その瞬間は訪れた。
「あ」
「え?」
言葉を紡ぐひまさえ与えられず、私は氷のたっぷりと入ったミルクティを頭からかぶってしまった。アイスミルクティを私にぶちまけた女性はごめんなさい、と言ってハンドタオルで私の濡れた服を一所懸命に拭くが、それもあまり意味を成していなかった。
「ははっ、ははは」
私はこの椿事に思わず声をあげて笑ってしまった。私にアイスティをぶっかけて青ざめていた女性も顔の血色を少しずつ取り戻していた。そして申し訳なさそうに、私に向かって言った。
「あの、私の家、ここから近いので、とりあえず行きませんか?」
「いいんですか?」
「もちろんです」
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