4人が本棚に入れています
本棚に追加
最近の琴音のストレスの原因といえば会社の部長だ。毎日言葉のセクハラをしてくるというそいつの話は、聞いているだけで俺も腹が立つ。俺は何度も「やめろ」といったけど、頑張り屋さんの琴音はもう何年も同じ会社で働いている。
「ま、働かざるもの食うべからずか。」
琴音はいつもその言葉でセクハラオヤジの話を締めくくる。その言葉は、頑張り屋さんの琴音の癒しに少しでもなれるよう、これからもしっかり話を聞こうと俺が心に誓う言葉でもある。
「遅いな。」
今までは仕事を終えて真っ先に帰ってきていた琴音が、最近遅く帰ってくることが増えた。寂しい気持ちはもちろんあったけど、いつも頑張り屋さんの琴音の邪魔をすることがないように、じっと待つのが最近の俺の日課だ。
「たっだいま~。」
遅くなっても、毎日琴音は絶対家に帰ってくる。いつもその明るい声を聞いて、玄関まで迎えに行くその間が、一日で一番わくわくして楽しい時間かもしれない。
「ごめんね、待った?」
「待ってないよ、おかえり。」
嘘をついたけど、この嘘は琴音のための嘘だ。いつか琴音が”人のためになる嘘”ならそれは嘘ではないといっているのを聞いたことがあるから、それは嘘ではないと思う。俺は本当に世間知らずだから、琴音はいつも俺に色々なことを教えてくれる。琴音が教えてくれることはすべて宝物みたいに思えて、絶対に忘れないのが俺の自慢だ。
「すぐご飯にするからね。」
最初のコメントを投稿しよう!