第1章 女子トイレの赤ちゃん

2/2
前へ
/10ページ
次へ
 オレンジに染まった夏のN市。 S駅近くのファミレスで、中高生達が益体の無いお喋りに花を咲かせている。 彼、あるいは彼女達のグループ内で、こんな噂が囁かれていた。 「ねぇねぇ知ってる?K駅にある女子トイレの話」 「聞いた事なーい」 「昔ね、その駅の女子トイレで、赤ちゃんの死体が見つかったんだって」 「えー、怖ー!ひょっとして堕ろしたの?」  語り部が得意げな笑みを浮かべる。 「知らないよー!それでそれで、その赤ちゃんの霊がその個室に残ってて、使った人の家までついていくんだってー!」 「やだー!私、そういう話苦手なんだってー!言ってるじゃーん!」 「ゴメンゴメン、でも死体が見つかったのはマジ話だって、アヤちゃんが」  聞きなれない名前に、聴衆の一人が思わず尋ねる。 「誰だよ、アヤちゃんて」 「ウチのおかーさん」 「おふくろ名前呼びとか、ヤベーな!」  若者達は元気に笑い合う。 これから語られる話に、彼らは指をかけることすらない。 大部分の人々は、当たり前の日々を過ごしていく…。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加