第3章 寂しい女

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 困惑しつつ、大和は連絡先を教えた。 「夕方、連絡します」  女――八塚秋穂(やつかあきほ)は去っていった。 アプローチされている…という事だろうか?思い返すが、どう考えてもそれほどの付き合いは無い。  深夜に車で送っただけで、惚れたというなら……流石にちょろ過ぎるだろう。 今日日、中学生でもそこまで初心ではあるまい。首を捻りつつ、大和は業務に戻った。  それから秋穂と大和は度々デートを重ねる。 すぐに寝る事が出来たのは良いが、彼女が同棲したがるのは困った。 泊めるのは構わないが、付き合い始めて間もない事から、同棲となると気後れする。  断る度に秋穂は恨めし気に大和を見つめてくる。 万事において控えめな女だが、同棲を進める際はいやにしつこい。 (けどいつまでも断り続けるのもな…)  付き合い始めて二週間、大和は彼女の家に訪ねる事にした。 せっかく交際したのだから、関係を進展させたい。それによって、同棲云々を決めてもいい。  押しすぎかとも思ったが、あえて誘いをかけてみる。 秋穂は訪問を拒んだ。驚く大和に、秋穂は小さく頭を下げた。 「ごめんなさい、部屋の中が整理できてなくて…また今度」 「そう…?」  翌日、車両点検中に大和は年下の同僚に声を掛けられた。 「斎藤さん、体調大丈夫ですか?」 「大丈夫だけど、なんか変かな」 「顔真っ白ですよ。休んだ方が良いんじゃ…」  同僚は心配そうにしている。 出勤前に確かめた限りでは、顔色に不調は出ていなかったはずだ。 腰が重たいが、病気と判断するには弱い。大和はいつも通り、業務に就く事にした。 「昨日、彼女と盛り上がったからな…」 「あぁー、例の?よくあんな若い娘捕まえられましたね」 「ウフフ…、まぁ俺もびっくりしてる」  夕方、大和は10代の少女を乗せた。 やや赤みがかった髪をショートボブにしており、くりっとした目が印象的だ。 彼女はK駅近くの美術館を告げる。発進させてしばらく経ってから、少女は口を開いた。 「彼女さんですか」 「は?」 「背の高い、ワンピースの人だ。通りかかった所を一目惚れですね」  一人で納得した様子の少女の声を聞きながら、大和は内心嘆息した。 面倒臭い客を乗せてしまった。関わりたくないと思いつつ、ドライバーは少女の言葉に意識を傾けていた。  しかし、聞き流せない部分もあった。
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