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彼女は秋穂と出会った状況を、ずばり言い当てているように思える。
興味を惹かれた大和は、少し話してみる事にした。
「……あの、何を言ってるんですか?」
「若い恋人がいるんですよね?まだ、10日くらいでしょう?結婚の意思はあるんですか?」
大和は怖くなってきた。
バックミラーに映る無邪気な笑みが、とても気味悪く思える。
なぜ、この少女は確信をもって、秋穂について話す事が出来るのか?
「…見てたんですか?」
「なにを?」
「私が、秋穂を乗せた所を」
少女は笑みを浮かべた。
無邪気とはもはや思わない。底なし沼のような気味の悪い表情だ。
「まさか。夜遊びはしません。家からも遠いし」
「……」
会話が打ち切られた。
重い沈黙が、大和を落ち込ませる。
やっとの思いで目的地で得体の知れない乗客を降ろす際、少女は一言、言い残して去っていく。
「身体に気を付けて」
大和はしばし、遠ざかる背中を見つめていた。
あの少女の意図は不明だが、彼女の言葉が自分を弄んだのは確かだ。
ふつふつと怒りが湧いてきた。胸中に生まれた重さを意識して見ないよう努め、大和は走り出す。
――しかし、腑に落ちない部分もあるんだよな。
秋穂は何故ああも、同棲したがるのか?
いや、そもそも何故自分に交際を申し出た?
彼は明日病欠する事に決めた。都合がつくなら、秋穂に思い切り甘えたい。その時に問い質してみよう。
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