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 そんなことを考えていたら、気づくと隣の彼もスマートフォンをどこかにしまって、あたしの顔を不思議そうに見つめていた。新人類でも見つけたような目で見つめないでほしい。さっきまでスマートフォンの画面を見ていた時の方が、まだ優しい目をしていた気さえする。いっそあたしも頭にCPUとOSを埋め込んで、何を言われても「すみません、よくわかりません」とか言っていればいいのか。 「―なに」  あたしは率直に言って、生身の人間ならまだしも、機械に嫉妬していた。ただそこにあるだけで、彼の気持ちをほしいままにする、あの掌におさまるあいつが憎くて仕方なかった。いったい誰なんだ、スマートフォンなんか開発したやつは。世の中がまだガラケーで止まっていたならば、ここまでのことにはならなかったはずなのに。  憮然として言ったあたしに、彼はほんの少しあきれたような、それでもどこかにあたたかさを持った笑みを口元にたたえながら、言った。 「スマホ、見て」  なによ、どれだけスマホが好きなの。あんたなんて、もうあたしじゃなくてスマホと付き合ったらいいんだ。本当はスマホなんて略すのは何となく馬鹿っぽいからスマートフォンと呼びたいけれど、もうそれすらも面倒臭い。いいんだよ、もう、スマホで。長音を含めて四文字も節約できたよ。よかったね。あたしの気分は全くよくないけど。 「なんで?」 「いいから。ほら、もう着いちゃうぞ」  だからなんだっていうのよ。その前に、あたしのこの気持ちをどうにかしてよ。あんたのだけじゃなくて、この車両の中にいる人間が持つ全てのスマホを、夜の学校の窓ガラスよろしく破壊してまわりたいくらいなのに。それなのに、目の前にいるのに、スマホを見ろってどういうことなわけ。  もうわかった。もうスマホと結婚すればいい。スマホに子供を産んでもらえ。そして役所の戸籍係がドン引きするようなとんでもない漢字を当てて、アンドロイドとか名前を付ければいいんだ。  最高に気分の悪い中で、あたしはバッグから自分のスマホを取り出して、新着メッセージの通知を、切って捨てる勢いでフリックする。 〈髪、切ったね。色も明るすぎなくて、よく似合ってる〉  彼からのメッセージだった。
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