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 彼は、あたしのことなんて何も気にしていないのかと思っていたけれど、ちゃんとあたしの変化に気づいてくれていたらしい。  でも、それならそうと、どうして口で言ってくれなかったのだろう。  疑問を浮かべながら、スマホの画面を見つめて硬直しているあたしの身体を、彼がひょいと立たせてくれた。気づけば電車は渋谷のホームで静止していて、乗客をステンレスの車体から吐き出しているところだった。人の波に押し流されるように、あたしと彼は、ホームに出た。 「―なんで、スマホで」  あたしの唇が紡ぎ出す言葉は、なんだか頭が真っ白になってしまったからか、壊れたロボットのような片言だった。彼は鼻の下を指でしゅっとやりながら言う。 「だって、電車の中じゃ気恥しくてさ」  高校生か!  でも、確かに彼は割とシャイな、どちらかといえば草食系な男子である。人ごみの中で手を繋ぐのも恥ずかしがるような人だ。それでもあたしが強引に手を握ると、さっきみたいに、自販機で売られているホットの缶コーヒーみたいな、ぽわんとあったかい笑顔を浮かべるのだ。考えたら、彼のそんな少し子供っぽい面も、あたしが彼を好きになった理由のひとつでもある。 「…変じゃないかな」  それを考えたら、なんだか今度はあたしが恥ずかしくなってきて、苦し紛れにそんな言葉を呟いていた。 「いいんじゃないかな。少なくとも、俺は好きだよ」  色合いもなかなか…などと言いさま、彼はあたしの髪の毛先をつまんで、指先でもてあそぶ。天井の蛍光灯に照らされ、本来の色よりも少し赤みがかって、妙に明るく見えた。
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