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別の電車が、反対側のホームに滑り込んできた。少し湿った、冷たい風があたしたちの身体を揺らす。その風のせいか、あるいはその他の何かのせいなのか、さっきまで地中のマグマのように煮え滾っていたあたしの怒りは、すっかりどこかへ消えていた。
たかが機械に、馬鹿じゃないの。
それでも、人の心は、簡単に移ろいゆくものだ。
だから、あたしは、負けるわけにはいかない。
あたしは未だに髪をいじっている彼の手をとり、ぎゅっと握った。彼はちょっとだけ、びくっと身体を揺らしたけれど、すぐにあたしの手を優しく握り返してくる。
大丈夫。いま、彼の掌の中にあるのは、スマホじゃなくて、あたしだ。
安心させるように自分に言い聞かせながら、ぐい、と彼の手を引いた。
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