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 あたしは決して裕福な生活をしているわけではないから、いろいろなことに気を遣う。コンセントを抜く? 当然じゃない。 風呂の残り湯で洗濯? そもそもガス代が嵩むから、バスタブに湯を張るなんて行為は、かれこれ数年来、したことがない。基本的に弁当をつくるようにしているし、できなければ昼食を抜くことすらある。  このくらいのことは誰にでも考えつくことなのだろうが、世の中には「いつも使うものとか必要なものには、相応の金をかけるべきだ」という人もいる。その「いつも使うもの」としてよく例が挙げられるのは、スマートフォンのように、現代人がいつも肌身離さず持ち歩いているものが多い。  確かに、あたしだってスマートフォンを持っているけれど、街を歩けば歩きスマホ、電車に乗れば座っていようが立っていようがスマホ、マックに入れば無料のWiFiに繋いでスマホ…という有様だ。現代人からスマートフォンを取り上げたら、いったい何千万人が自死を選ぶのか、あたしは時折そう疑問になる時がある。  ちなみに言えば、あたしはスマートフォンを取り上げられて、これからいわゆるガラケーを使いなさいと言われても、何の抵抗もせずに是認するはずである。そもそも今使っているスマートフォンだって、単にこれを買えば家に引いているネット回線が安くなるという触れ込みだったから買っただけの話だ。他に理由などない。両親や彼氏と連絡が取れるなら、スマホだろうがガラケーだろうが、なんならトランシーバーでも構わない。  そんなあたしには今、どうしても、我慢ならないことがあるのだ。  東横線の車内で、今、あたしの隣に座っている彼が、彼女であるあたしを差し置いて夢中になっている、あるモノの存在である。  世間的にそれは「スマートフォン」と呼ばれるものだ。
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