隠した刃

10/15
前へ
/100ページ
次へ
音楽大学に通っている。 ギターを背中に担いでも、大学生というより路上ミュージシャンに間違えられる。この間なんか、中学時代の友達に遭遇して 「路上ライブやるの?」と聞かれたときは負け組として見られたような気がした。 社会に貢献できないこの人たちをみて、ホッとしていることが本音。優しいふりしてるわけじゃない。福祉活動にも尽力することは自分のモットーだ。 それがたとえ、自分より少し若い少年でも。 「少年!」 今日も沼を見つめる彼に声をかける。無愛想に振り向き、舌打ちが返ってくる。 「なんでいつも沼を見てるの?」 「別に、理由なんかないけど。」 乱暴なしゃべり方。言葉を捨てるような、相手に投げつけるような言い方が特徴的だ。 「名前で呼ばないのか?」 この間、“瀬谷“と呼ばれているところを目撃してから 警戒されている。 「……別に。少年でいいじゃん」 驚いたように彼は目を丸くしてこちらを見た。 「今の話し方、にてた?君って乱暴なしゃべり方するから、真似してみた」 そのとき、初めて彼は笑った。一瞬だったが、口角があがり 頬が緩む。 とても愛らしい笑顔の持ち主なのだ。 いつも難しい顔をしているのに、彼も子供であることを思い知らされた。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加