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「しかし、ひっでぇ天気だよなあ」
緒方さんと会う直前、少しばかり覚えた私の緊張は一気に緩んだ。
彼はいつもとなんら変わりなかった。
夕べはやっぱり、少し酔っていたのだろう。
緒方さんのことだから、部下の私にあんな姿を見せたことを今頃悔いているかもしれない。
私は夕べのことには触れずに彼の調子に合わせた。
「ホントですね。今日は客足は見込めませんね」
「そうだなあ。客足も期待できねえけど、俺たちもちゃんと帰れるのか心配だな」
「そうですね……」
緒方さんが心配するもの無理はなかった。
台風は直撃とはいかないまでも、今日の昼すぎにはこの辺も暴風域に入る。
状況次第では帰りの電車が運休になる可能性もあった。
予定通りに帰れれば、閉店間際にはなるが帰りがけに珈琲屋に寄って今日のうちに佐久間くんにお土産を渡せたらと思っていた。
この天候ではお土産もゆっくり選んでいる場合ではないかもしれないがまだ諦めてはいなかった。
「客が来なけりゃ、早めに切り上げて帰るって手もあるし、そう心配するな」
私の顔が曇ったせいか、緒方さんは私を元気づけるように言い、「今日も頼むぜ」と会場に入った。
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