珈琲屋

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「真面目な奈緒がこんなの読んでるなんて意外だけど、30歳になって、独り身な上に彼氏もないとトキメキもこういうものに力を借りたくなるのよねえ。わかる、わかる」 私は苦笑いするしかなかった。 彼氏がいるのに…… トキメキを他に求めている。 そんなこと、いいのだろうか。 だけど、荒木部長とは大人の付き合い。 キュンキュンなんて…… トキメキなんて、 別次元の話だ。 「彼氏がいたらさ……この歳でもキュンキュンとか……あるのかな?」 「そりゃそうでしょ! キュンキュン、ドキドキが恋愛してる、っていう実感でしょ」 「……で、でもさ、もう三十路だしさ」 「三十路が何よ? 歳はとって身体は衰えていくけど、気持ちってのは年齢関係ないんじゃない? だいたい、30なんてまだ若いじゃない? 奈緒は綺麗なのに外見より中身がオバサン」 薫に言われてメイク途中の顔を鏡に向ける。 キュンキュン、ドキドキ…… そんな感覚を味わったのはいつだったろう……。 脳裏に浮かぶ光景。 思い出す手のひらの感触。 おつりを差し出す佐久間くんの顔が急に頭に浮かびあがった。
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