彼の嘘

2/35
15122人が本棚に入れています
本棚に追加
/374ページ
心臓が焦りだす。 目が泳ぐのはなぜだろう。 仕上げのチークは乗せていないのに、 鏡をのぞく私の頬は薄く色づいていた。 鼓動の速さは後ろめたさだろうか。 「奈緒?」 薫がひょいと顔を出す。 鼓動を速めた心臓は過剰な反応で胸元から飛び出しそうになる。 「え!?」 「何そんなに驚いてるのよ? 準備できた?」 「あ、あ、うん。もうすぐ」 私は慌ててチークブラシを手にして返事をすると、薫から顔をそむけながら急いで支度を整えた。
/374ページ

最初のコメントを投稿しよう!