彼の嘘

34/35
15132人が本棚に入れています
本棚に追加
/374ページ
私はこの時。 初めて彼の焦る顔を見た。 なんにでも自信があり、いつも余裕のある笑みが、彼が取り繕おうにも全く上手くいっていない。 こんな彼を初めて見た。 もっとも、彼自身はそのことに気付いていないのか、強張った笑顔で必死に弁解を始めた。 「今年の売上げ目標を達成するために後期は営業の尻を叩かなきゃならない。それは奈緒も良く知ってるだろ? 今年の目標は今の段階じゃ厳しいんだよ。だけど、それを指摘すると、いつも経理は数字だけで偉そうにって嫌味を言われる。こっちだって好きで言ってるわけじゃないのにな。だから、向こうが新人でいいって言ってるところに、君みたいな実力者を推薦して、営業部に恩を売りたかったんだよ。奈緒ならわかってくれるだろ? 言ってなかったことは……悪かったよ」
/374ページ

最初のコメントを投稿しよう!