やらせるなんて言ってない

8/11
前へ
/181ページ
次へ
 そんなの詭弁だ。そう言いたいが、どう反論していいかわからなかった。久我が隣に座ってきて、囁く。 「うーうー言ってないで答えろよ、シスコン」 「わかんないけど」 「わかんない? 愛とやらを教えるんだろ、俺に」 「理屈じゃないんだ。心が、通いあうとか、この人を大事にしたいとか、そういうこと」  久我は鉛を飲み込んだみたいな顔をする。 「は?」 「だから、こう、抱きしめられたら、なんか心が暖かくなるだろ」  俺はそう言って、久我に抱きついた。酒の匂いと、香水なのか、甘い、いい匂いがした。そういえば、キスされた時も、この匂いがしたな。 「……」  久我は黙り込んでいる。 「ならない?」 「まったく」 「この悪魔め、血が紫色なんじゃないか……?」  俺が離れようとしたら、久我がぐっと背中に手をまわす。  そのまま、身体をソファに倒された。 「え、な、んだよ」 「おまえが抱きついてきたんだろ」  久我の指が、俺の耳たぶに触れた。なんだ、と思った隙に、そのまま頭を固定されて、唇を奪われる。余りに鮮やかな手際で、俺は唇を塞がれてから、遅い抵抗を試みる。 「むー!」  必死にもがくが、無駄な抵抗だった。  なぜだろう、頭と肩を固定されているだけで全く動けない。  というか、なぜこいつは平気で男にキスができるんだ。恵の言う通りバイなのか。     
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

135人が本棚に入れています
本棚に追加