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迎えに来いとは言ってない
久我の自宅から逃げ帰って以降の数日間、俺の日常は穏やかに過ぎていた。
学校に行けば親友の恵がいて、家に帰れば最愛の妹がいる。ああ、これが幸せってやつか……学校からの帰り道、そんな感慨を噛み締めていると、恵が声をかけてきた。
「ヒロ、これからうち来ない?」
「え? いいのか?」
「もうすぐテスト。一緒に勉強しよう」
「恵は成績いいじゃん」
「もちろん、ヒロのため」
笑顔が怖い。
「前みたいに、赤点ラッシュは嫌だろ? 俺、担任から苦情言われた。ちゃんとヒロの面倒見ろって」
恵がこんなこと言うなんて珍しいな。つまり、よほど俺の成績はひどいのだ。
「お、おう、そうだな」と顔を引きつらせると、恵がくすくす笑った。
「そんな顔しない。クッキー焼いてあげるから」
「マジで?」
恵は料理がとてもうまく、菓子類も絶品だ。俺が顔を明るくすると、気分をぶち壊すような冷たい声が聞こえてきた。
「よお、ヒロ」
その声に視線を動かし、ギョッとする。
「げっ」
神領と久我が、高級車のわきに立っている。進学校の制服を着ているうえに二人とも見栄えがいいので、女子生徒の視線を難なく集めていた。
「出たな悪魔め、悪霊退散」
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