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マキ「バカ・・・すみませんこんなのに付き合わなくてもいいですから。」
マキは不意に、ショーケースに目を移した。
ケースは三段に分けられていて、プライス札のカラーが上から青、赤、緑と分けられていた。
マキ「ご主人、今日のオススメは?」
向井「ん?今日は牛の肩ロースかな、特売だよ!」
マキ「どこです?」
向井「真ん中の段。」
マキが真ん中に注目すると、赤のプライス札で、肩ロースの値段が表示されていた。
向井「ちょっと早いけど、やっぱ、すき焼きなんかいいんじゃない?」
涼夏「すき焼き・・・・・マキさん。」
マキ「夕食は自腹だからね。」
涼夏「んんー!もう!」
マキ「上手いね、牛の物まね、上の段は、高い肉
ばっかり・・・・」
向井「まあね、俺が自慢の目利きで仕入れた和牛だから、値は張るけど、味は確かだよ!」
上の段には和牛のロース、ヒレ、サーロインが並べられ、それぞれ青のプライス札でグラムあたり¥2000以上の値が付けられていた。
涼夏「和牛・・・マキ・・・」
マキ「こっちみんな。」
二人は引き続き、『向井精肉店』から二件隣にある
『宇部和菓子店』を訪ねた。
瓦屋根の上には、『宇部和菓子店』と書かれた立派な看板が掲げられ、木造家屋の店舗内は、袋詰めにされた饅頭やあられ煎餅、和菓子の詰め合わせなどが並べられている。
そして、この和菓子店の店主、宇部京子(うべ きょうこ)も、容疑者を目撃した一人であった。
宇部は和服の似合う、清楚な顔立ちの老婆で、丁寧な口調でマキの質問を受け答えしていた。
マキ「すると、宇部さんは22時過ぎに、このお店で不審な男を見たと・・・」
宇部「ええ、正確には、お店の『前』ですね。」
マキ「お店の前で・・・宇部さんは何故、22時にここにいたのですか?」
宇部「丁度、お風呂が壊れていたので、近所の銭湯に行く途中でした。」
マキ「なるほど、それで、外に出かける途中で男を見かけた。」
宇部「ええ、黒っぽい服装をした、背の高い男の人でした。」
マキ「どの辺りを歩いていたんですか?」
宇部「確か・・・・道路を挟んだ向こう側の歩道を、だいぶ、急いでいる様子でした。」
涼夏「ここも、一緒か・・・・」
マキ「あと、長田すみれさんという方はご存知ですか?」
マキを真っ直ぐ見つめていた宇部の視線は、長田の名前を聞いた直後、ゆっくりと視線を落としていった。
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