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その折り返し、階段の後ろにあたる部分に客席が並ばれている。
四人掛けテーブルが連ねる中、一番奥の端に、マキと涼夏が銀色のプレートに夢中になっている。
プレートには高く盛られたオムライス、横にはきつね色のチキンカツが乗せられ、その端には鮮やかな野菜とポテトサラダが添えられている。
涼夏「うん・・・まあい・・・・」
涼夏はひたすら、オムライスをすくったフォークを口の中にほうばっていた。
マキ「あ、ここの会計、給料から天引きしておくから。」
涼夏の、フォークの動きが止まった。
涼夏「ファ?・・・だって、昼飯代は出すって・・・」
マキ「うん、一日、500円ね、浜ランチは1250円だから、差し引き750円は抜いとくね。」
涼夏「・・・・・ポテサラいただき。」
涼夏はマキのプレートのポテトサラダをフォークで刺した。
マキ「おい!ポテサラ返せ!」
昼食を終えた二人はそのまま事務所に戻ることにした。
涼夏が運転する車は、馬車道、山下公園を通り過ぎ、元町商店街の裏側へと入って行く。
輸入雑貨や宝石店が並ぶ賑やかな表通りに相対して、元町の裏通りは静かな景観を見せている。
車一台が辛うじて通れる通りに、小さなカウンターのある飲食店や雑貨店が民家と混じりながら並んでいた。
その裏通りの一角に小さな店舗棟がある。
一階には創作和料理店と宝石店が横に並び、その真ん中を仕切るように二階へと続く階段がある。
二階の片方には美容院、そしてもう片方にマキが開いた事務所、『元町探偵社』が存在する。
二人は車を、向かい側の僅かなスペースに停めて事務所へと向かった。
階段を上がる途中、マキは足を止めた。
・・・へぇ、おもしろいこれ・・・
・・・もう一回やるか・・・・
誰もいないはずの事務所から、男女の会話が聞こえる。
涼夏「・・・誰?」
もう一度声を聞いた瞬間、マキは小さくため息を漏らした。
・・・また来てんのかよ、ヒマかよ。
マキが事務所の扉を開けると、真ん中の三人掛けソファーに男と女が並んで座っている。
男の名前は隆司(りゅうじ)、52歳、常にTシャツで黒のキャップを被っている。坊主頭で強面。マキの事務所から程近い場所でバーを開いている。
女の名前は玲奈(れいな)26歳、パーマのかかったセミショートヘアで、こげ茶色のレザージャケットを着ている。
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