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【第三章:風の狩場とカルマの谷 十五】
スズの耳のすぐ近くを、白く輝く綿毛がすり抜けていった。
吹き上げてくる風は強く、思っていたよりもずっと冷たい。
その風の中をキラキラとした光を受けて、いくつもの植物の種が舞う。
タンポポの綿毛が巨大になったように見えるものや、プロペラ型をしたものなど、様々だ。
眼下には、白から赤、そして茶色のグラデーションで出来たマーブル模様の巨岩の谷が広がっている。
谷の合間には、エメラルド色の大蛇がくねるようにして、深く、激しい水流の大河が流れていた。
川の上流、白い山脈の連なる北西方面の下方は、徐々に紅葉を迎えた木々に彩られており、スズやギンコ、子ネコたちを乗せた飛車は、そちらへ向かって飛んでいる。
子ネコたちは全部で八人、年齢はマレビトで言えば小学五、六年生くらいだろうか。
魔神輪や持ち物についてスズが一緒に学んでいた時の子ネコたちは低学年程で、彼らは今日、フーカたちとより初心者向けの狩りに出ている。
いずれも朝の集会でマヌルを中心に、天と地と万物に宿る神と、あらゆる生命、そしてこれから狩りの獲物になってくれるであろう、命の糧を与えてくれる存在への感謝の祈りを捧げた後での出発となった。
この祈りは定型のものではなく、個人それぞれの心の中で捧げられる、黙祷だった。
スズがこちらの岩イノシシ狩りに同行したのは、今後のシルフの移動の日程も含めて、あまり長くマヌルの郷に留まってもいられないからだった。
「ザガンさんは、重くないんですか?」
スズが風の音に負けないよう、大きめの声で問う。
「案ずるな、新しいマレビトの少年。
飛車はお主らの体重など無効にしてくれる」
飛車はその名の通り、空を飛ぶ車だ。
車体には青と緑を中心に美しく彩られた幾何学文様が描かれ、どことなくトナカイが曳くサンタのソリを思わせる。
飛車を運んでいるのはマヌルの郷を代表する魔獣、グリフォンのザガンだった。
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