【第三章:風の狩場とカルマの谷 十五】

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 今日のギンコはいつもと違い、笑顔が少ない。  大概ヘラヘラしているので気安く話せるのだが、もともとかなり美しく整った彫刻のような美形であるため、真面目な顔をしていると気圧される迫力がある。 「今日はみんなの見学を兼ねてるから飛車でここまで来たけど、本来なら一日四十キロくらい歩くのも覚悟しとかなきゃなんだよ。  だから、毎日の筋力トレーニングは大事」  おしゃべりの内容も真面目だ。  スズの怪訝そうな視線を受けて、「狩りの時のね、ルールなんだよ。  大声で騒いだり、ふざけて笑ったりしちゃいけないの。  これから獲物になってくれる生き物の命をもらい受けるんだから、真剣に臨むのは当然の事だけど」  と、ようやく目と口の端だけで微笑んだ。  そう言われてみれば、今日は子ネコたちも静かだ。 「やあ、来たね。ザガン、ご苦労様」  崖の奥、先に森が見える方向からブラッドが歩いてきた。  今日はシルフのメンバーも、皆と同じ狩衣姿だ。 「若様。いえいえ、この程度の事。  ではまた、お帰りの際はお呼び下さい」  ザガンは美しくお辞儀をすると、大きな翼を羽ばたかせ、上空に向かって飛んで行った。  ちなみに飛車は彼の意志で自由に取り外しができるそうで、ネコタミたちの狩りの合間にも、自分で獲った獲物を載せてマヌルの郷まで帰ることも良くあるらしい。 「さて、じゃあ森との堺まで戻ろうか。  罠の張り方を順番に教えるからね。  何か質問があれば、ご自由にどうぞ」  ブラッドが彼の魔神輪である、刀身内蔵型の仕込み杖を胸にあて、スズや子ネコたちに向かってお辞儀をした。 「……あの……素朴な疑問なんですけど、魔獣って、飛んで魔境に逃げちゃうって事しないんですか?」  あっという間に黒い点にしか見えない程遠くに飛んで行ったザガンの方を指さしながら、スズが問う。 「なるほど。そちらの世界には魔獣が存在しないので、疑問に思うのも当然ですね」  ブラッドは皆を先導し、森に向かう緩やかな坂道を下りながら話し始めた。
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